硝子の蓋を閉じていると、この箱はただの木箱にしか見えない。
開けてはじめて、内張りの東京組紐と、蓋の江戸切子が、矢羽根という吉祥紋様で結ばれていることに気づく。
切子はポピュラーな色被せではなく、江戸本来の透明硝子を鏨で彫った。組紐は帯締め用の平打ち紐を横に繋ぎ、一枚の布に仕立てている。硝子を彫る手と紐を組む手は、同じ江戸の町にいながら本来交わらない仕事だったはずだ。その二つを一つの文様で結ぶのは、職人の町ならではの遊び心でもある。
江戸っ子は野暮を嫌い、裏地の裏勝りや小紋のように、近づいて初めて気づく凝らし方に粋を見た。この箱も同様、表からは多くを語らない。