ガラスを知る人ほど、この器には驚くはずだ。ダルマのように丸い底のまま卓上に置かれているのに、ぴたりと水平を保っている。
これほど厚みのあるガラスを吹きガラスでつくり、しかも水平に落ち着く精度を出すことなど、至難の業だからだ。
秘密は、つくり方にある。この器は、大きなガラスの塊から削り出されている。
日本には、半導体や光ファイバーといった工業製品向けに、高品質な石英ガラスをつくるメーカーがある。そこで生み出される透明な石英ガラスの塊を、職人が削り出してかたちにした。
とはいえ、削り出しであっても、水平を保つのは難しいことに変わりはない。重心がわずかでもずれれば、器は傾いたまま止まってしまう。職人の腕の高さがうかがい知れる。
テーブルに置くたび、指先が触れるたび、器はわずかに揺れて、そのうち静かに止まる。慌ただしい一日のなかで、その揺れを見つめる時間だけは、ゆっくりと流れていく。